今回は、このワークショップを受講してくださり、WIT Entrepreneurでもある特定非営利活動法人きずなメール・プロジェクト (以下:きずなメール)の大島さん(共同創設者・代表理事)、松本さん(共同創設者・コンテンツ担当)ご夫婦にインタビューをしてみました!
普段知る機会が少ない、NPOの理事会運営の様子や、ワークショップでの学びをどう活かしているか、覗いてみてください☆
聴き手・書記:大谷紗知子、青木三紀
文責:山本未生
◇◆◇小さな組織だからこそ多くの視点から見るという多様性が大事◇◆◇
1. まずはじめに、きずなメールの理事会(ボード)の変遷を教えてください。
松本:きずなメールは2010年に設立、2011年4月にNPO法人になりました。最初の理事は前職でのつながりがあった方や、応援してくれる方にお願いしました。できるだけ人数を最小限にしようと、法律で定められている3人からスタートしました。現代表理事の大島さん、地域コミュニティ活動を行っている小林さん、大島さんの大学からの親友である袖岡さんです。理事会の運営の仕方は、「こんな感じでいいのでは」と、なんとなく手探りで進めました。
大島:団体を立ち上げた大島も松本も出版社出身で、理事会で求められる「会議で承認し議事録をとる」という進め方は、それまでの仕事でやったことがなかったので、最初は戸惑いました。その後、Social Ventures Partners Tokyo(注1)との協働が実現し、活動を通して出会い、共感してくださった方に理事をしていただきました。
2012年から産婦人科医の太田先生、相模原市で男性の仕事と育児の両立を考えるイクダンプロジェクトを展開する会社の経営者である蛯谷さんに、理事に就任していただきました。きずなメールの原稿は医師との協働で制作されていますし、普及にも産院などの医療機関と連携することもあります。そのため、この時期から理事に医師が加わったことは、団体の信頼性を高めるためにも重要だったと思います。経営者である蛯谷さんの参画は、組織運営の助言につながり、心強く感じました。
このタイミングで袖岡さんは入れ替わりで退任し、しばらくこのメンバーでやっていましたが、今期からSVPでお世話になった入部さんも新たに理事に入り、理事の人数は現在5名です。理事会は四半期に一度開催。大島さん以外は日常的な業務には携わっていない、いわゆる外部理事なので、ていねいな情報共有を心がけています。
2. ボード&ガバナンスワークショップを受けたことで、理事会の運営で変えたことはありますか?
大島:テキストは常に手元において必要なことがあれば見ています。「理事会の年間開催予定を決めておこう」というアドバイスがワークショップであったので、今年1年の日程は既に決めて案内しています。理事会の運営に関する資料は、他にはWIT監事の広石さんのエンパブリック(注2)のものくらいしかなく、とても貴重です。
松本:私は理事ではありませんが、昨年からコンテンツ開発担当と事務局長を兼任することになり、組織運営や理事の力をどう生かすかということに意識が向き出した時期だったので、WITからこのワークショップの案内が来た時は迷わず申し込みました。実際に大島さんと一緒にWITのワークショップに参加して、経営を考える必要性にあらためて気がつきました。
ワークショップで一番良かったのは、「理事を団体のミッション達成のための力にしていく」というメッセージです。経営をしていく上では、日々の業務とちょっと切り離して考える場が必要で、そんな理事会をつくっていこうという気持ちになりました。日々業務を行っていると、つい近視眼的になってしまいますから。
大島:NPOの理事会は、企業で社外取締役を入れるのと一緒だと感じています。理事には、私自身の経営方針などに独りよがりなところはないか、スタッフはコミットしているか、外部理事の立場だからこそ見られる点を見てもらいたいですし、小さな組織だからこそ多くの視点から見るという多様性が大事だと思います。
松本:(理事メンバーの多様性という意味では)理事に女性がいないという問題はまだありますし、また、孤独な子育て予防の活動をしている人にも今後は入ってもらいたいと思っています。
◇◆◇こんなことお願いして大丈夫かなという遠慮があったけれど、伝えることがお互いの関係を深めるんだ◇◆◇
3. WITボード&ガバナンスワークショップを受けて良かったこと、気づきを改めて教えてください。
大島:価値の高いワークショップでした。内部理事、外部理事の考え方を知れたことで、組織体制を考えるきっかけになりました。例えば、組織の回し方をよくわかっている人が理事会へ入ったら、現在事務も担いながらコンテンツ編集者もしている松本さんの、組織における立場が明確になるだろうと感じました。
また、情報共有の大変さを改めて知りました。ワークショップを受けて、「理事も数字をしっかり見ていきましょう」ということになり、理事会で幾つかの経営指標を数値で報告するようになりました。これを通じて、きずなメールの事業がきちんとまわっているかどうかを理事が見てくれているようになりました。
松本:理事に対して、私たちスタッフが何を求めているかを明確に伝えることが重要だと気づきました。以前は「お願いして理事になってもらっているのに、(それに加えて)こんなこともお願いしてしまって大丈夫かな」という遠慮がありました。でも、ワークショップを受けて、伝えることがお互いの関係を深めることだと再確認しました。
また、各理事の役割を明確にすることも重要だとわかりました。ワークショップ後、2回理事会が開かれましたが、率直に現状の課題とその課題解決に理事も一緒に取り組んでもらいたいことを伝えられたように思います。一方で、理事からも、3か月に1回、理事たち自身も学べる講座があるとモチベーションになるという提案をもらうこともできました。
大島:理事メンバーが持つ多様なネットワークの相乗効果が出ると良いと思っています。そして、新しい風に触れて、発見や気づきを得たいという理事の期待にも応えられるといいと思います。
4. ワークショップで良かったこと、それから、改善・工夫点はありますか?
大島:事前準備でいろいろな実例を読めたのが良かったです。国内の実例がなかったのは残念で、次回から入れてもらえるとうれしいです。また規模が大きい団体は遠い印象になってしまうので、規模の近い団体の例も知りたいです。
松本:WITに関わることで、私たちの「目線をあげること」ができています。きずなメールの事業で、海外のことをやりたいと思いながら、日常では業務に追われてできなくなってしまうので WITのラーニングジャーニーなどに参加して、長期目標から考えることを続けていきたいと思います。
大島:このワークショップ講座は、他の中間支援組織等にに有償で提供できると思います 。そこから広めていくのも一つですね。
松本:ワークショップを受けた後は、いつも良い気分で終わることができました。WITのプログラムは、行くまで内容がわからないことは多いけれど、資料の作り方はきちんとまとまっていて、講義もありながら、教える側対教わる側という空気にならない。立場の違いがないことがとても印象的でした。内容の学びに加えて、とても温かい気持ちになれるんです。自分の団体に持ち帰ってがんばろうという気持ちになれることがとてもよかった。与えられたものをもらうだけではない、骨太の講座でした。
大島:講座を受講して、その時の資料を残しているものはほとんどないけれども、このワークショップは残してあります。この知識が必要だったし、日本にないものでした。WITは真正面から難しい課題に立ち向かっていると思います。
注1:Social Ventures Partners Tokyo:http://www.svptokyo.org/
注2:株式会社エンパブリック:http://empublic.jp/