皆さんの関わっている団体にはボード(理事会や取締役会)やアドバイザーがいますか? 彼らはどのように団体の意思決定に関わっていますか?
ボードは、社会起業の成長のためにどのような意味があるのでしょうか? 団体の成長や持続可能性につながるような、効果的なボードを持つためにはどうしたらいいのでしょう?
WITでは社会起業家への支援を行う中で、社会起業の経営を支えるボードやアドバイザーの役割についても重視しており、時には支援先の社会起業家へボードメンバーとして加わることもあります。しかし、社会起業におけるボードの役割や効果的な活用・貢献についての議論はまだまだ活発だとは言えません。
そこで今回は、複数の大企業の取締役として企業の意思決定を支えてきたと同時に、コーポレート・ガバナンス* の研究をしてきたクリスティーナ・アメージャンさん (WITパートナー)をゲストに迎えて、2014年12月に仙台にて勉強会を開きました。
前半はクリスティーナのプレゼンテーション、後半は、参加者で議論しながら、社会起業にとってボードやガバナンスとはどういうことなのか、考える時間になりました。
*ガバナンス:訳語は「統治」。組織や社会に関与するメンバーが主体的に行なう、意思決定、合意形成のシステム
クリスティーナ紹介
米国出身で日本在住歴18年になるクリスティーナは、コロンビア大学ビジネス・スクール助教授を経て、現在は一橋大学大学院商学研究科の教授として、組織行動やリーダーシップ、経営等を教えています。専門研究テーマは、コーポレート・ガバナンスや、東アジアおよび欧州、米国の資本主義の比較制度、日本企業の様相変化等。現在、三菱重工業株式会社、株式会社日本取引所グループの社外取締役も務めています。
どんなに頭脳明晰な人でも、誤った判断を下す
まず、なぜ企業にボード(取締役会)が必要なのかを考えてみましょう。
株式会社は、オーナーである株主の利益最大化のために、経営者が経営を委任されて運営されています。ところが、経営者が株主のことを第一優先しないで行動をとってしまうことはよくあり、エージェンシー問題と言われています。取締役会は、この株主と経営者との間に存在し、企業をとりまく多様なステークホルダーの意見が、経営に反映されるような役割を担っています。具体的には経営陣の監督と彼らへの助言アドバイスという機能を持っています。
では、どうして会社のことをよく分かって、経営を任されている経営陣が監督される必要があるのでしょう? 経営者が自己利益に走ってしまうのを防ぐため等、様々な理由がありますが、ここでは意思決定の心理学に注目してみましょう。
心理学の研究では、どんなに頭脳明晰で優れた論理的な人であっても、誤った判断を下してしまうことがあることがわかっています。例えば、「最初の意思決定の正しさを証明しようと決意して、損失の原因になったことに資源を注ぎ込み続け」てしまう「コミットのエスカレーション現象」、「コンセンサスや仲良くやっていくことに価値を置く同質性の高い集団は、効率性や現実を無視して意思決定」をしがちになる「集団思考」などがあります。特に、「属する組織に深くかかわっている人や、組織に多大な力を注いでいる人、情熱に駆り立てられている人は、特に意思決定の罠に陥りやすい」のです。このような判断のバイアス(偏り)をなるべく排除し、よりよい判断を下していくために、第三者に相談したり確認してもらうことが大切です。
多様性は創造性と革新の源
ボードのもう一つの役割に、経営陣に対する助言アドバイスがあります。多様なボードメンバーが集まることで、「新しい発想、発想の新しい組み合わせ、異なる経験、広いネットワーク」が経営に生かされます。特に、今までと同じことをやって右肩上がりで成長することが難しくなった時代において、多様性があるボードを持つことは、イノベーションの源泉だといえます。
組織内のコミュニケーションパターンは大丈夫?
経営陣の意思決定ということに関して、ある会社のコミュニケーションパターンを調べた研究を紹介しますね。下は、社内の誰と誰がコミュニケーションを取っているかの図です。この中でCEOは何番だと思いますか?
出典:Winning Through Innovation: A Practical Guide to Leading Organizational Change and Renewal By Michael L. Tushman, Charles A. O’Reilly
答えは、28番。驚くほど孤立していますね。逆に一番多くの人とコミュニケーションしているのが秘書でした。
(山本)よりよい意思決定をしていくために、経営陣が普段からどのような人々とコミュニケーションをすべきか、考えさせられますね。
小規模な非営利組織にボードが必要?
大企業ではなくても、ボードメンバーを持つことには様々な利点があります。良い助言を得られたり、外からの視点を取り入れることができる他に、経営者や創設者がボードに対して説明責任を持つことで、組織を支援してくれる人々に対するコミュニケーション力も上がります。経営陣の経験がまだ少ない場合には、経営陣の養成という良さもありますね。
ディスカッション・タイム!
クリスティーナのプレゼンの後、小グループに分かれて、次の2つの問いについて話しあいました。
1) 今自分の団体にボード(理事・取締役)やアドバイザーはいるか?今のボードやアドバイザーは団体や自分にとってどういう存在か?
2) 今後ボード(アドバイザリーボードでも可)をつくったり、成長させるとしたら、どういう人に入ってほしいか?彼らからどのようなキャピタル(資本。Financial、Intellectual、Political、Socialなど)がほしいか?
ボードと経営者の関係性のアナロジー
ディスカッションの後は、出た意見を共有しながら、WIT代表山本より、NPOのボードと経営陣の関係性について3つのタイプの紹介をしました。(Governance as Leadership: Reframing the Work of Nonprofit Boards、Richard P. Chaitら、2004年を参照)
同著では、ボードの3つの機能として①監督・監視する、②方向性を示す、③意義・意味をつくっていく が挙げられています。それぞれ、ボードと経営陣との関係性を比喩にしてみると、①ダム―川、牧羊犬-羊の群れ、②ヘッドライト―自動車、舵―ボート、③インスピレーション―詩人、デザイナー―アート作品 などのイメージが挙げられています。どれか1つが大事なのではなく、全ての役割に意味があり、組織のフェーズなどに応じてそのバランスをとっていくことが大切です。
参加者からの感想
「理事も経営もスタッフも全部自分がやっている、そもそもボードが機能していないし、アドバイザーはいるが、ボードを持つイメージが持ちにくい。考えたことがなかったトピックだったので、とても良い機会だった」
「(ボードを構成していくことは)自分のポートフォリオをつくっていくようなイメージだなと思った」
「単なるアドバイスではなく、組織にコミットしてアドバイスしてくれる人は大事だ」
「ボードが役割を果たしやすいような法に則った受け入れ体制づくりも大事ですね」
おわりに
社会起業家は、多様なステークホルダーを巻き込んで変化への挑戦をしています。とはいえ、人材や資金をはじめとする様々な資源やキャパシティは十分ではない場合が多いです。また、民間セクターに比べてManagement Discipline(経営面の規律)が弱くなりがちな点もあります。だからこそ、共に組織を創っていけるボードがいることは、持続可能な形で目指すインパクトを出していける活動をしていくために、非常に重要です。
日本の上場企業では社外取締役の受け入れが一部義務化されるなどの動きが出ていますが、社会セクターにとっても、「創造性と革新の源」をもたらしてくれる多様なボードには、果たせる役割がたくさんありそうです。
また続きの勉強会を開催していきたいと思います!
ご参加いただいた下記のみなさま、ありがとうございました!
WIT投資先
WITパートナー
・クリスティーナ・アメージャンさん
・野本仁さん
ボランティア: 菊池靖子さん
小川真美さん、せんだいみやぎNPOセンター
佐々木秀之さん、せんだいみやぎNPOセンター
白川由利枝さん、仙台市市民局
簗瀬裕子さん、一般社団法人ワカツク
(順不同、開催時の所属を記載)
文責 山本未生 / Written by Mio Yamamoto